アイドルそのものへ!

つねに今ここにいるアイドルそのものへと立ち戻って語ること。

『原宿着!神宿です。』全曲レビュー track 2. 原宿戦隊! 神宿レンジャー

シングル曲としてリリースされていたライブの定番曲「原宿戦隊! 神宿レンジャー」が2曲目にやってくる。

「戦隊モノ」をコンセプトにした楽曲。作詞作曲を手掛けたのは青SHUN学園のプロデューサーであるSHUN。SHUNは、神宿のプロデューサーである北川から、歌詞について「戦隊要素が薄いですね」ってダメ出しされたとインタビューで回想している。その甲斐あってか、歌詞は非常に考え抜かれたものとなっている。

作詞の白眉は、メンバー紹介のパートだ。個々のメンバー紹介は、自分の色とあだ名を名乗るだけの普通のものだが*1、羽島めいによる「メンバー紹介 今から続くよ、 攻撃しないで 待っててね」という台詞がふるっている。アイドル楽曲に特有の「メンバー紹介」を、戦隊モノの「名乗り」と上手く重ね合わせている。

「なぜヒーローは名乗りの間に敵から攻撃されないのか?」というのは戦隊モノでしばしばネタにされるが、本曲では敵にむかって「待っててね」と言うことで、このネタをメタ的に取り入れて笑いに変えることにすら成功しているのだ。まったく、すばらしいとしか言いようがない。

ちなみに、アイドルの自己紹介も戦隊ヒーローの名乗りも、その源流は歌舞伎の口上にある点は既に指摘されているが、本曲では最初と最後で「イヨ~オッ」と見得が切られ、意図的なのかそうでないのか、源流たる歌舞伎の存在もそこはかとなく匂わせられる。

楽曲面を見てみよう。「名乗り」のバックで右トラックから鳴るギターのカッティングもやたらとかっこいいのだが、そんな細かい点よりも注目すべきは、シンセソロの直後に入ってくる一ノ瀬みかのソロ歌唱パート(「ありきたりな~」)だろう。本曲の基調を為すロックから一転、音数を減らしたギターをバックに、一ノ瀬が朗々と歌い上げる。元々がアニメ好きで、演技性のある歌唱スタイルを持つ一ノ瀬には、このパートはお手の物。勢いがよいがために、ともすると上滑りしてしまいそうな楽曲に、上手くフック(ひっかかり)を作り出している。

 

 

原宿着! 神宿です。

原宿着! 神宿です。

 

 

*1:しかしライブで見ると、短い自己紹介にもそれぞれの個性が出ていておもしろい。個人的には、羽島みきのなげやりな「みーにゃんです」が好きだ。

『原宿着!神宿です。』全曲レビュー track 1. Overture

2017年11月14日にリリースされた神宿の新しいアルバムは、1stアルバムと同じく、Overtureとともに幕を開ける。

静謐な管楽器系シンセの調べから4つ打ちのビートが刻まれ、ヴォコーダーのような機械音声での「K. M. Y. D. 」という台詞とともに視界が開け、楽曲はアップテンポに。

前作『原宿発!神宿です。』に収録されていた初期Overtureに比べ、観客がMIX(「オイ! オイ!」)を打つポイントが明確になっており、制作陣がアイドル楽曲に慣れてきている様子が伝わってくる。

この1分半ほどのOvertureを経て、神宿の2枚目のアルバム、神宿という物語の第2章がいよいよ開幕する。

本ブログでは、1stアルバムに続き、この2ndアルバムについても全曲レビューを行っていきたい。

 

原宿着! 神宿です。

原宿着! 神宿です。

 

 

【ライブレポ】神宿3周年ライブ『神が宿る場所〜HARAJUKU DREAM DAY1~』@ラフォーレ原宿

0. 神宿は原宿をジャックし、舁夫はラフォーレ原宿をジャックした!

 「アイドルオタクをしていなければ、決して行くことがなかった場所がある」と、熱心なアイドルファンは言う。アイドルを追って西東、時に地下のライブハウスに潜り、時に天空のステージへ登り、時に遠征し、時に泊まり……。それに比べればスケールは一段落ちるかもしれないが、私にとって、「ラフォーレ原宿」という場所は、こんな機会でもなければ来ることのないところだ。

 どこか和風なエントランスをくぐり、建物内に入ると、オシャレな空間が広がり、オシャレな人たちが歩いていた。そして、やや異色な人たちが、ぞろぞろと階段に並んでいる。何人かのTシャツの背中には、「舁夫」という文字が誇らしげに書かれている。神宿のファンを表す呼称だ。ライブ会場であるラフォーレミュージアムは6階なのに、すでに1階まで列ができている。神宿3周年ライブの列であった。私も列の最後尾に並んだ。

 すぐに整理券番号が呼ばれ、思ったほど待つことはなく、会場内に入ることができた。会場がひろびろとしているおかげか、そこまで窮屈ではない。開演前なのに、すでにスモークが焚かれている。真ん中の少し後ろあたりに陣取り、幕が上がるのを待った。

1. 「もっとリボンが欲しい」と羽島めいは言った

 定刻を少しだけ過ぎたころ、小山ひなによる前説が流れる。迷惑行為に関する注意に加え、会場がショッピングモールの6階にある関係上、今回のライブではジャンプも禁止だという内容。

 前説が終わり、いよいよライブが幕を開けた。最初は、一曲目にふさわしい、『はじまりの鐘を鳴らせ』。その後も『必殺!超神宿旋風』『全開!神宿ワールド』と順調に曲が続くが、なぜかそこから『限界突破フィロソフィ』を2回続けて披露する神宿。このまま「エンドレスエイト」の如く無限ループに陥ったらどうしようかと一抹の不安が胸をよぎるも、2回同じ曲を披露した後は、無事に次の曲へと移っていった。

 MCでは、3周年を記念して、原宿中を神宿がジャックしているという話題に。様々な店舗とのコラボや、JR原宿駅の神宿の巨大ポスターの話題は、神宿のファンの方はご存知だろう。メンバーたちもそれぞれポスターを見に行き、人が多すぎてポスターだけを撮るのが精いっぱいだった一ノ瀬みかを除く4人は、しっかりとポスターと一緒に写真を撮ったという。ツイッターなどにその写真を挙げたメンバーもいるものの、羽島みきはすっぴんのまま撮ってしまったため(「なんかポスターと顔が違った」とは本人の弁)、公開せず。その写真は、スマホのフォルダにこっそりと収められているとか。

 MCでは、今回のライブが初披露となる新衣装の話題も。リボンやフリフリがたくさんの、パステルカラーのチェック柄のかわいらしい衣装。関口なほが「はじめてのかわいい衣装」と口にし、「語弊があった」と慌てて言い直す。「こんなに<いかにもアイドル>な衣装ははじめて」とのこと。ボーイッシュなイメージの羽島めいは、衣装のチェック時に「ここにリボンをもう一個足してください」と言っていたことをばらされて慌てていた。

2. 一番新しい曲、そして一番最初の曲

 その後もライブは恙なく進んでいくが、突然、「3周年ということで……新曲を披露します!」と羽島めいが告げた。披露された新曲『LIFE is やっぱビューティフル』は、ヨナ抜き音階による、ハイテンポな和風ポップス。神宿というグループ名を考えると、ヨナ抜き音階楽曲はもっと早く登場していてもおかしくはなかったが、意外にもこの楽曲が初めてではないだろうか。私も一回聴いただけなので確信が持てないが、アウトロに、まねきケチャ『冗談じゃないね』へのオマージュフレーズが入っていた気がした。

 アップテンポな新曲に、観客のテンションも高まる。小山ひなが「お客さんがいっぱい入ると、リハーサルよりも暑い!」とぼやき、一ノ瀬みかに「すごい……肉汁が!」と容赦のない言葉を浴びせられる一幕もあったものの、ライブは次第に終盤に。

 そして、デビューと同時に発表された、神宿の自己紹介ソングである『KMYD』が流れた。「はじめましてで お目にかかります」と、小山が最初のフレーズを歌うのを聴いたとき、私は鳥肌を抑えることができなかった。3年前、右も左もわからないままステージに上がり、この曲を歌った彼女たちと、今ここで同じ曲を歌っている彼女たち。3年の間に彼女たちが経験したであろう物語が、この楽曲に投影され、私の耳に届いたように思われた。

3. 神宿がさっそうとランウェイを歩いた! ただし小山ひなはぺたぺたと歩いた!

 ライブが一旦ひと段落して、メンバーがステージ袖にはける。妙な間が空き、会場が微妙な空気になってきたところで、なんとかファッションショーがはじまった。そう、今回、神宿のメンバーたちは、それぞれのお気にいりのファッションブランドとコラボ。ラフォーレミュージアムのステージを使って、ライブ内でプチ・ファッションショーを行ったのだ。それぞれがお気に入りのブランドを選んだだけあって、一ノ瀬みか(Supreme)はいっそうの美少女に、小山ひな(NILE PERCH)はいっそうかわいらしく、羽島みき(NICE CLAUP)はいっそう美しく、関口なほ(Heather)はいっそうスタイルよく、羽島めい(SPINNS)はいっそうかっこよく――それぞれのメンバーのよさがひときわ際立っているように感じられた。赤いベレー帽に黒いワンピースをまとってランウェイに登場した小山ひなは「みんなヒールでさっそうと歩いていたけれど、私だけ靴がぺたんこだから、ぺたぺた歩いてた」と振り返った。今回コラボしたブランドの多くは、ラフォーレ原宿内にも出店しているとのこと。女舁夫の方は、訪れてみてはいかがだろうか。

 最後はファッションショーの衣装のまま、『Ultra Cheer』と『ビ・ビ・ビ♡』の2曲を披露して終演。最初(『はじまりの鐘を鳴らせ』)と最後(『ビ・ビ・ビ♡』)に、デビュー楽曲を持ってくる狙いすましたようなセットリストだった。舁夫たちの興奮は冷めやらず、ライブが終わった後も、会場モニターに映し出されるスタッフロールのBGMに合わせて熱唱する舁夫の声がいつまでも鳴り響いていた。

 神宿3周年ワンマンは明日24日(日)も同会場で行われる予定。また、ライブビューイングも予定されている。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー 目次

本ブログでは、神宿の1stアルバム『原宿発!神宿です。』の全曲レビューを行いました。

各曲の記事へのリンクをここにまとめておきます。

 

1. Overture

2. KMYD

3. 全開!神宿ワールド

4. あの娘にばれるような・・・

5. ビ・ビ・ビ♡

6. 必殺!超神宿旋風

7. 僕らは愛を信じている

8. ぱらしゅ~と☆らぶ

9. はじまりの鐘を鳴らせ

10. Summer Dream

 

原宿発!神宿です。

原宿発!神宿です。

 

 

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 10. Summer Dream

 ストリングスとピアノにのせた小山ひなのソロ歌唱から始まり、そこからホーンが爆発してハイテンションな楽曲になだれこむ。アルバムの最後を飾るのは、今や神宿の夏のステージの定番曲ともなった楽曲だ。

 歌詞中では明示されていないものの、何かのスポーツに打ち込む少年と、少年に恋するものの打ち明けずにいる少女の夏が描かれる。ちょっと嘘くさいほどの青春スポーツ恋愛マンガ的な趣きだが、作者のながいたつの「ロマンチックなものが好きで、実際の高校生だって現実には体験してないような、超現実美の世界を描きたかった」とのコメントを読めば納得がいく。

 聴きどころは、ブリッジで、左トラックから聴こえる台詞だ。ライブでは録音で対処しており、歌われることがないので正確にはわからないが、2番の「言わないよ」は羽島めいだと思う。1番の舌ったらずな「好きだよ!」は小山のように聴こえるが、小山のボーカルに小山のセリフをかぶせるだろうかという疑念もある。だとすると羽島みきだろうか。謎は深まる。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 9. はじまりの鐘を鳴らせ

 『ビ・ビ・ビ♡』の項でも書いたが、『ビ・ビ・ビ♡』とこの『はじまりの鐘を鳴らせ』は、神宿への楽曲提供のオファーを受ける前から、ながいたつのストックにあった曲だった。よって、この曲にも、AKB48への提供を想定した曲ではないかという疑惑が起こる。アップテンポで明るいアレンジ、オーケストラルヒット、パワーコードのリフなど、AKB楽曲を特徴づける要素は多い。

 しかし、そんなことはどうでもよいのだ。歌詞は神宿用に書き直され、その結果、この曲は神宿のデビューにふさわしい楽曲へと変身を遂げた。冒頭から、神宿の門出を祝福するかのように鐘の音が高らかに鳴り響く。「パッ、パララ~」と、口でラッパを再現させる試みもおもしろい。

 中でもこの曲の一番のポイントは、「夢 夢みて 恋 恋した」や「あし あしたの こと ことなど 」に見られる、「吃音」の構造だろう。作曲家の武満徹は、「吃音宣言」と題されたエッセイの中で、ベートーヴェンの第五(『運命』の通称で知られる)に、吃音の構造(ダ・ダ・ダ・ダーン)が見られることを指摘した。

 どもりはあともどりではない。前進だ。どもりは、医学的には一種の機能障害に属そうが、ぼくの形而上学では、それは革命の歌だ。どもりは行動によって充足する。その表現は、たえず全身的になされる。少しも観念に堕するところがない。(武満徹「吃音宣言――どもりのマニフェスト」『武満徹エッセイ選――言葉の海へ』収録)

武満は、文法的な正しい言葉や、論理的に流暢な楽曲のみが尊ばれる状況に警鐘を鳴らす。本来、音や言葉は、ため息や叫びであり、人間の行動そのものだった。しかし今では、「人間というものから遠ざかり、方式の形骸」(ibid.)となってしまっている。ベートーヴェンの楽曲に見られる吃音の構造は、音楽を形式の呪縛から解き放ち、生身の人間の身体行動(武満の表現では「生の挙動」)へと取り戻す試みなのだ。

 「はじまりの鐘を鳴らせ」に、吃音の構造が見られることは興味深い。アイドルの出現によって、ポップ・ミュージックは様相を変えた。CDは、生身のアイドルと「接触」するための道具となった。楽曲の論理的な構造を知ることよりも、ライブの「現場」に通い、そこで盛り上がるという経験が大切だとされた。形式の音楽より、生身の身体へ。武満が「吃音宣言」で提唱した、「生の挙動」へと音楽を取り戻すことを実現したのが、あたらしい<アイドル>というムーヴメントだったのだ。

 

 【参考文献】

武満徹エッセイ選―言葉の海へ (ちくま学芸文庫)

武満徹エッセイ選―言葉の海へ (ちくま学芸文庫)

 

 

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 8. ぱらしゅ~と☆らぶ

 ピコピコの中田ヤスタカサウンド、要はPerfumeである。私が勝手に言っているわけではない。作者のながいたつも、インタビューにおいて、「「今回の神宿はPerfumeだな」って言われるような曲を、あえて作りました」と述べている。確信犯である。歌詞中に「チョコレート」も入っているし。

 しかしながら、本曲は神宿によるPerfumeごっこ以上の意味は持たず、「ながいたつには色々な引き出しがあるのだな……」、「神宿メンバーも、こういった曲にも対応できるのだな……」程度の感想しかない。

 本曲を聴いても特に感想は抱かないが、一方で、アルバムにバラエティがあるのは、素晴らしいことだ。これは、本アルバムのほぼすべての楽曲を、一人の作曲家が書いていることと関係がある。アマ・プロ取り交ぜて様々な作曲家がいる現在、アイドルの楽曲は往々にして、様々な作曲家に依頼される。様々な作曲家が参加すると、そのアイドルの楽曲のバラエティは増すか? いや、逆に、画一化されてしまうのだ。

 解散直前の℃-uteを思い出してみよう。つんく♂が作曲を一手に担当していた時代は、バラエティに富む楽曲を歌いこなしていた℃-uteだが、つんく♂が一線を退いた後の解散直前期には、様々な作曲家が書いた、似たような解散ソングをこれでもかと歌っていた。

 なぜこのようなことが起こってしまうのか。逆説のからくりはこうだ。様々な作曲家に発注を出すものの、発注側は常に同じ人だ。発注時に伝える、イメージも、自然と似たようなものになってしまう。さらに、同時期に制作する場合、作曲家はお互いの曲を参照し、差別化を図ることもできない。こうして、いくら違う作曲家が書いても、似たような曲が量産されてしまうのだ。

 一人の作曲家が全ての曲を書けば、「この前はアップテンポな曲を書いたから、次はバラードを入れよう」、「コール&レスポンスのある曲も一曲は必要だな」といったように、俯瞰的に全体の調整を行うことができる。作曲家の小山良太は、この俯瞰的な調整を、次のようなたとえで述べている。

僕の場合はそれ[引用注:ミュージシャンやバンド、ユニット]を1つの「お店」だと考えた時に、「そのお店にどんな品物が揃っているとお客さんが喜ぶのか?」ということを考えるんですね。そこから、「このお店には今、こういう品物が必要だから作ろう」という発想で、メロディや歌詞をディレクションしています。(『SOUND DESIGNER』2013年11月号)

お店全体を見渡し、今必要な品物(楽曲)は何かを考えることができる人材が必要なのである。そういった意味で、本曲はながいたつの「店長」としての才能を示す一曲であるといえよう。

 ちなみに、本曲「ぱらしゅ~と☆らぶ」は、羽島めいのお気に入りの一曲らしい。