アイドルそのものへ!

つねに今ここにいるアイドルそのものへと立ち戻って語ること。

【神宿から始めるアイドル入門】4.「裏の喪失」に抗う神宿運営(2)

 アイドルのライブ現場でも、「裏」の喪失は問題を引き起こしている。まねきケチャのプロデューサーである古谷完もまた、SNSアカウントなどを駆使して、積極的に露出を行うプロデューサーの一人だ。まねきケチャの楽曲『タイムマシン』では、冒頭に男性の声によるナレーションが入る。このナレーションは、実際には俳優の水橋研二によるものなのだが、当初は情報がなく、ファンの多くは「出たがりのプロデューサー」である古谷が自らナレーションを入れたものと思い込んでいた。そのため、一時期のまねきケチャのライブでは、この曲がはじまり、ナレーションが流れると、マナーの悪いファンたちが「古谷、いらねぇんだよ!」「古谷は死ね!」といった暴言を叫ぶのが聞かれた。

 このようにアイドルのファンが表に出てくるプロデューサーを批判するのは、どのような心理によるものだろう。アイドルに対するファンの感情は、「ガチ恋」と呼ばれる本気のものから、「応援」という緩いレベルのものまでさまざまであるものの、「疑似恋愛」であると言われる。ファンのアイドルに対する感情は疑似恋愛ではないと主張する人々もいるが、性的スキャンダルが報じられたアイドルの人気がことごとく低下することからも、実際には多かれ少なかれ、ファンはアイドルに疑似恋愛的な感情を抱いていると考えて差し支えないだろう。

 ファンがアイドルに対して疑似恋愛的な感情を抱いているのであれば、男性のプロデューサーやスタッフの姿が垣間見えることに対して、抵抗を覚えるのも当然である。とりわけ古谷のような若い男性プロデューサーが、「ガチ恋」ファンからの反感を買うのも、理解できなくはない。実際に、BiSのプロデューサーである渡辺淳之介(若い、表に出るタイプの男性プロデューサーである)は、AbemaTVに登場した際に、「まことしやかに言われてました。(メンバーと)付き合ってるとか、ヤってるとか」と、プロデューサーとメンバーの交際が噂されていたことを語っている(『矢口真里の火曜 The NIGHT』#15)。このように、プロデューサーとアイドルがよからぬ関係なのではないかと邪推するファンは多い(秋元康のように、実際にプロデュースしたアイドルと結婚した例もあり、邪推とばかりはいえないかもしれない)。プロデューサーの積極的な露出は、この感情に具体的な対象を与え、反感を強めてしまう。それが上記のような、「いらねぇんだよ!」「死ね!」といった発言につながるのである。

 積極的に舞台裏を見せる戦略をとったAKB48ですら、舞台裏映像に映るのは、もっぱらメンバーたちであった。カメラの「こちら側」にいる男性スタッフの存在は、執拗に隠蔽される。メンバーへのインタビューでは、質問を投げかけている男性スタッフの音声はミュートされ、字幕へと置き換えられる。ましてや、舞台裏映像に男性スタッフが登場し、「はいどーも。音響スタッフやってます。オレっすか? いやあ、ここだけの話、オレはまゆゆが一番カワイイと思うんですよね」などと語ることはない。そんな「裏」は、誰も見たくないのだ。AKBが、「「ダダ洩れ」を行っている「かのように」思わせ」ているに過ぎないと看破した宇野の分析は炯眼だったといえよう。そう、やはりアイドルの世界にも、見えてはならない「裏」が必要なのである。

 

 今回で神宿の運営戦略まで書くはずが、まねきケチャとBiSとAKB48に、すっかり紙幅を使ってしまった。神宿については、最後のお楽しみとして、次回にまわすことをお許しいただきたい。(続く)