アイドルそのものへ!

つねに今ここにいるアイドルそのものへと立ち戻って語ること。

【ライブレポ】OnePixcelワンマンライブ『NATSUMATSURI』@渋谷WWW

 日曜の渋谷は、特別に混んでいた。神宮外苑で花火大会があるからだろう。着物姿の女子たちがグループを為して歩き、ときどき集まって自撮りなどしている。あまりの人口密度に軽い眩暈に襲われながら、渋谷の坂を上った。

 急な階段を下りて、会場である渋谷WWWに入ると、驚くことに、そこは人でぎっしり。渋谷のセンター街など、メじゃないほどの人口密度だ。WWWは500人キャパの会場だが、女性限定エリアと関係者席以外は、さながら高校の理科で習った最密充填構造の如くである。客層は男性が中心で、年齢層は高め。人ごみをかき分けながら、なんとか最後方にスペースを確保する。これで前の人の肩越しに、ちらちらと視界にアイドルを拝むことができる、というわけだ(ただし、がんばって背伸びをすれば、の話だ)。

 一人目のオープニングアクトは、東宝芸能所属のシンガーソングライター、森木レナ。未だ高校2年生の17歳だが、しっかりとアコギで8ビートを刻みながら、さわやかな歌声で会場を沸かせた。ギターの抑揚のつけ方など、堂に入ったものだ。対照的に、両手を合わせながらの、どこか芸能ズレしきっていないMCも可愛らしい。

 二組目のオープニングアクトは、OnePixcelの妹分、PiXMiX。6人組のガールズグループだ。なんとなく、顔だちを見ていると、OnePixcelと似ているような気がして、東宝芸能の中の人の好みが見えてくるのもおもしろい。「小さく前へならえ」の掛け声で整列すると、元気なダンスと歌唱で会場を盛り上げた。

 続いて3ピースのバックバンドを従えて、いよいよOnePixcelが登場。まずは、ビーティーな「Analoganize」。サビでの傳彩夏のダンスに目をひかれた。Hideの「Rocket Dive」のようなカバー曲を織り交ぜつつも、「Time」や「sora」といったオリジナル楽曲群を出し惜しみなく披露していく。田辺奈菜美によるソロ歌唱でのaiko「花火」や、傳、鹿沼亜美にPiXMiXのKOHIMEを加えた3人によるダンスの披露も。

 アンコールは、ももクロの「ココ☆ナツ」の披露に始まり、最後の「One 2 Three」でファンたちと一緒にジャンプ。観客のテンションも最高潮に高まったまま、ライブはフィナーレを迎えた。

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 途中のMCで、興味深い一幕があった。メンバーたちが8月の4~6日にかけて出演した世界最大のアイドルフェス、TIFを振り返り、TIFには馴染めなかった、という趣旨の話をしたのである。「「sora」を披露したときも、お客さんたちは「えっ?」というテンションだった」「TIF(で盛り上がる曲)って、「オイ!オイ!」みたいな(曲調の)曲だからね」と、メンバーたち。「でも、TIFで私たちのことを見て、ワンマンに来たという方もいると思う」と、鹿沼が上手に話をまとめた。

 私は、この話を聞いて、少しだけ胸が痛んだ。何を隠そう、私は、TIFのOnePixcelの客席にいた。たしかに、客席には30人くらいしかおらず、閑散としており、かなり間近から余裕をもってOnePixcelを観ることができた(それはすばらしい体験だった)。だから、今回のWWWの混雑っぷりに、逆に私は驚いたのだ。さて、メンバーたちの話から導かれる結論はこうだ。OnePixcelはWWWを埋め尽くすほどの多数のファンを抱えている。しかし、フェスに足を運ぶような、比較的若いアイドルファンからは、あまり人気がない(あるいは、あまり知られていない)。

 なぜ、OnePixcelはTIFに来るような若いアイドルファンからの人気がないのだろうか。いろいろな理由が考えられる。東宝芸能は長い歴史を持つ老舗芸能事務所だが、どちらかというと俳優・女優のマネジメントが中心である。たとえば、男性バンドとの共演のような、アイドル運営ではタブーとされてきた手法(たとえば、Buono! のバックバンドは常に女性だけだった)をとるなど、OnePixcelの運営戦略は、いわゆる「アイドル運営」とは、やや異なる*1。他のグループに比べると、インターネットでの発信も少ないように思われるし、会場の混雑具合も、気になるところではある。

 そして、メンバーたちが指摘した、曲調の違いも、確かに存在する。OnePixcelの楽曲は、実績のある中堅・ベテランの作曲家が手掛けているものが多く、イマドキのアイドルソングの系譜というよりは、アメリカン・ポップ・ディーヴァや韓流アイドルソングの系統に近い仕上がりとなっている。

 しかし、こうした面とは裏腹に、私が今回のライブで実感したのは、「老舗の底力」だった。それは、多くのオーディションを主催している東宝芸能ならではの、人材発掘力である。メンバーたちを見てほしい。(オープニングアクトも含めて、)ここまで粒ぞろいの逸材を揃えることが、東宝芸能以外のどこにできるだろうか。

 天文学者カール・セーガンは、ボイジャー1号から送られてきた画像を見ていたときの経験をこう語っている。「地球のある方向にカメラを向けると、映っていたものは、たった1画素の、青白い点でした。その青白い点が私たちの全てであり、そこには国と国との区別もなければ、陸と海との区別もなかったのです」。今のOnePixcelは、TIFに馴染めずに下唇を噛む、1画素の点かもしれない。しかし、この1画素の点は、この地球のようにかけがえのない、「私たちの全て」になる可能性を秘めた点なのだ。私はそう信じている。メンバーたちの前途が洋々たるものであることを願いながら、そして観客の間をピンボールのようにつきとばされながら、私はWWWの階段を上がり、再び渋谷の喧噪の中へと足を踏み出していった。

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 OnePixcelは10月18日にセカンドアルバム『monochrome』の発売を、そして10月22日には、渋谷マウントレーニアでの2周年ライブの開催を予定している。 

*1:ただし、東宝芸能は、OnePixcelについて、「アイドルやアーティストの様なコンセプトは決めずに」と発表しており、公式ツイッターの表記も「ユニット」とだけ記している(PiXMiXも、アイドルではなく「ガールズグループ」であるとされる)。