アイドルそのものへ!

つねに今ここにいるアイドルそのものへと立ち戻って語ること。

【神宿から始めるアイドル入門】5.「裏の喪失」に抗う神宿運営(3)

 アイドルたちの「舞台裏」を公開し、「裏方」であるプロデューサー自らが「表」に出て、露出を重ねるという戦略が、最近のアイドル運営の主流だった。この戦略は、「ガチ」感を生み出し、また、発信者側に立っているかのように錯覚させることで、ファンの熱狂を生んだ。しかし、アイドルに対して疑似恋愛的な感情を抱いているファンは、「表」に出てくるプロデューサーに対して、強い嫌悪感を抱く。ふり返ってみると、「舞台裏」を公開する戦略で大成功を収めたAKB48も、全てを公開するように見せかけて、男性スタッフの存在をなるべく映像から消すなど、「裏」を確保する工夫を重ねていたのだった。やはりアイドルの世界には、見えてはならない「裏」が必要なのだ、というのが前回までの結論であった。

 さて、ここでいよいよ、神宿の運営について見てみることにしよう。神宿のプロデューサーである北川は、徹底的に露出の少ないプロデューサーである。北川の存在は、メンバーの発言や、神宿に曲を提供した作曲家のインタビューの中で断片的に言及されるのみで、自分からの露出は、ストイックなほどに行っていない。

 ためしに、googleで「神宿 プロデューサー」で検索してみよう。まず、「原宿戦隊!神宿レンジャー /限界突破フィロソフィ」の作曲家であるSHUNが、神宿公式サイト内のインタビューで「神宿プロデューサーの北川くんが(…)」と、北川について言及している(http://kmyd.targma.jp/posts/4894/)。このインタビューの中で、SHUNが「北川くんは表には出たがらない性格だし、神宿にはもちろん魅力的なメンバーが揃っているけれど、メンバーだけじゃなくて、裏にはこういうスタッフがいるからこそ、おもしろいんだと思う」と、「表」「裏」の表現を使いつつ、北川が露出したがらない旨を語っているのは、本稿の論旨からすると大変興味深い。SHUNが公式サイト内の鼎談の中でも北川に言及しており、そのページも検索上位にヒットする(http://kmyd.targma.jp/posts/6947/)。また、羽島めいが高校卒業に際して、「私が学校生活で沢山お世話になってきた先生や家族、友達、高校になって神宿で出会ったメンバー、プロデューサー、舁夫さんの想いを背負って。」(https://lineblog.me/kamiyado/archives/1062415275.html)と、プロデューサーに言及しているブログも見つかる。他に1ページ目にヒットするのは、2chまとめサイトでのファンたちによる論評くらいである。つまり、インターネット上で公式にプロデューサーへの言及をしたのは、ほとんど楽曲提供を行ったSHUNのみということになる。SHUNが「たまにはこうやって、スタッフさんの話をするのもいいよね。」(前掲インタビュー)と述べるのも、うなずける。それほどに、神宿の「裏」にいるスタッフの話をする人はいないのだ。北川は「舞台裏」に姿を隠したまま、頑なにファンの前に姿を見せようとはしないのである。

 SHUNは北川の露出の少なさを、「表には出たがらない性格」のせいだとしているが、私はこの露出の少なさは、戦略的なものであると思う。神宿は、『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』にスタッフとして参加した大学生が、アイドルグループをプロデュースしようと思い立ったことによって始まった。つまり、神宿の運営陣は、大変若い。当然、積極的な露出を行えば、まねきケチャの古谷やBiS渡辺の例で見てきたように、「ガチ恋」ファンを中心として反感を買うことは想像に難くない。TIFのスタッフまでやってしまうようなアイドル好きの運営が、「舞台裏」を裏としてファンの見せずにおくことの大切さを知らないはずもない。そこで、このように露出を徹底的に減らす戦略に出たのではないか。神宿の運営戦略は、アイドル業界を席巻した「裏の喪失」戦略に対する揺り戻し――「裏」の必要性を自覚するアイドル好きプロデューサーによる、アンチテーゼなのだ。