アイドルそのものへ!

つねに今ここにいるアイドルそのものへと立ち戻って語ること。

マーティ・フリードマンが選ぶ「日本のベスト・ロック・バンド 10選」にまねきケチャとももクロがランクイン

 英国の音楽誌Classic Rockの企画で、元メガデスのギタリスト、マーティ・フリードマンが「日本のベスト・ロック・バンド10選」を選んでいます。

teamrock.com

多くのロック・バンドに混ざって、最後の2選で紹介されているのはまねきケチャと、ももいろクローバーZ。「アイドルだって、ロックじゃん!」というマーティの声が聴こえてきそうなセレクトです。

 ももクロの入選は、その知名度を考えても、さほど意外ではないかもしれません。また、マーティ自身がコメントで書いているとおり、マーティはももクロと「一緒にたくさんの仕事をしている――ももクロのコンサートでギターを弾いたし、一緒にレコーディングもした」ので、納得の入選です。

 一方で、ももクロと並んで入選したのがまねきケチャ。近年人気上昇中とはいえ、ももクロに比べると、一般的な知名度はまだまだ。さすがマーティ、見る目があるなあと唸ってしまいました。まねきケチャについて、マーティのコメントを少し引用してみましょう。

 まねきケチャはガール・グループでボーカル・グループだ。楽器を弾いたりはしないけれど、楽曲のアレンジは本当に卓越しているし、メンバーはとてもとても可愛い。日本のとても可愛いもののひとつだね。BABYMETALみたいな可愛さではないけれど、日本のアイドルの可愛さだ。日本のアイドル音楽――特に今の日本のアイドル音楽――は、向こう[日本]では飛びぬけて一番大きなジャンルなんだ。そして今は、アイドル音楽はとても健全なジャンルだ。(前掲記事、引用者訳)

"cute" という言葉を何回も使いながら、まねきケチャを説明しています。可愛さとロックの融合こそ、まねきケチャをはじめとする日本のアイドル音楽の特徴なのかもしれません。特に、まねきケチャの楽曲は、ロック要素が強めです。マーティも楽曲のアレンジに言及していますが、まねきケチャの楽曲は、音楽制作集団Elements Gardenが手がけており、全楽曲がかなりロックっぽいアレンジとなっています。

 比較にBABYMETALを持ち出しているのもおもしろいですね。海外の人にとって、わかりやすい比較対象になるほど、BABYMETALはメジャーだということがわかります。

 最後に、「アイドル音楽はとても健全なジャンル(原文:super healthy genre)」だと書かれているのが気になります。これ以上の説明はされていないので、マーティの真意は測りかねますが、「アイドルが不健全なジャンル」とされることに対する反論のように思います。

 海外では、日本のアイドルカルチャーについて、「少女に対する性的搾取ではないか」という批判がされることがあります。たとえば、過去にはCNNの記者がAKB48の『ヘビーローテーション』のPVを取り上げ、秋元康に対して、少女の性的搾取ではないかと質問し、秋元が否定したことがありました。マーティはこのような批判を意識した上で、「今は、アイドル音楽はとても健全なジャンルだ」と、アイドル音楽を擁護しているのではないでしょうか。

 もちろん、アイドルが性的搾取ではないことは、日本のアイドルファンにはよくわかっています。しかし、海外から疑いの目が向けられていることも事実。アイドル運営は、こういった批判があることを意識して、疑われるような振る舞いのないように、健全なシーンの形成を進めていってほしいものです。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 7. 僕らは愛を信じている

 アルバム用に書き下ろされた楽曲だ。

 小山ひなの歌唱によるアタマサビで始まるのは、神宿の多くの曲に共通する構成。しかしBメロではビートルズ "A Day in the Life" を彷彿とさせる不穏なストリングスが鳴り響き、そこから関口なほによるブリッジ。サビに突入するがサビは2度繰り返される。そこで、「震えるぞハート 燃え尽きるほどヒート」である。ジョジョだ。第1部のジョナサン・ジョースターのキメ台詞そのまんまだ。これほど堂々と、しかもサビでパロってくるとは……。

 聴きどころは落ちサビのなほによる「嫌いだ」の連呼だろう。この「等身大」な歌声を持つなほの存在こそが、ともすれば「アーティスト」へと越境してしまいかねない技巧を持つ神宿を「アイドル」たらしめている最後の砦、最重要な特異点であることを確信させてくれる。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 6. 必殺!超神宿旋風

 この曲の中で関口なほは、「正直歌詞の意味難しすぎてよくわかんない」と歌っている。しかし、詞はそこまで難解ではない。もしも「よくわかんない」部分があるとすれば、それはオマージュ(パスティーシュ、パロディ、まあ、何でも構わない)の部分だろう。

 神宿の楽曲には、しばしば、マンガやアニメ、ゲーム、そして他の楽曲への言及が織り交ぜられている。この曲でのわかりやすいオマージュは、「変身をまだ三つも残してるの!!!」だろう。『ドラゴンボール』で、フリーザがピッコロに対して言い放ったセリフだ。ただし、フリーザのオリジナルの台詞は「その変身をあと2回もオレは残している」であり、神宿に比べて変身残余は1回少ない(だからなんだ)。

 他にも「不思議な力が湧いてくる」のは、おジャ魔女カーニバルのオマージュなのか? とか、「どうにもこうにも止まらない」のは山本リンダじゃないのか? とか、色々な疑惑が湧いてくるが、いずれも決定的ではない。

 ライブでこの曲を歌うときに観客を大いに煽り立てる羽島めいは、CD音源でも活躍している。「君のために投げキッス」が彼女のパート。透明感あふれる歌声でのフレーズ。めいにとって、リスナーをノックアウトさせるにはこのワンフレーズで十分だった。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 5. ビ・ビ・ビ♡

 「はじまりの鐘を鳴らせ」と「ビ・ビ・ビ♡」は、神宿への曲提供のオファーを受けた時点で、ながいたつのストックに既にあった楽曲らしい。10日で3曲を準備しなければならないという無茶なスケジュールだったため、急遽神宿用に歌詞を書き直し、レコーディングまでこぎつけた。爽やかなイントロから流れるように広がっていくメロディーは、アイドルソングの王道といった趣きだ。

 憶測にすぎないが、AKB48への楽曲提供も行っていたながいは、AKBに提供するつもりで本曲を書いておいたのではないか。オーケストラルヒットやパワーコードを刻むギター、ペンタトニックを中心とした速弾きのギターソロ、「きっと」「君と」の追っかけコーラスなど、そう思わせるまでに、この曲の「AKB成分」は濃い。ライブでも、ユニゾンで5人が歌うという、神宿には珍しい歌唱形態がとられるところにも、AKBの影響が伺える。

 一方で、詞は「神宿用に書き直した」だけあって、少年少女の恋の予感と不安を、新人アイドルとファンの関係と巧みに重ね合わせたものに仕上がっている。デビューしたての神宿が、「少しだけでも 気になるのなら足を止めてほしいな」と呼びかけ、「僕を好きになりそう?」と問いかける。フェスなどで、ステージ上で懸命に歌い踊る、知らないアイドルと出会ってしまい、少年少女の一目惚れにも似た、強い<始まりの予感>を「ビ・ビ・ビ♡」と抱く。このブログをお読みになっている方にも、そんな経験がきっとあるのではないだろうか。

 歌唱面での聴きどころは、「僕を好きになりそう?」でのファルセット歌唱だろう。おそらくCD音源での歌唱は小山ひな。直前部の地声での歌唱から、シームレスにファルセットに移行する、技術的な高さを窺うことができる。

滝口ひかりとサルトル――「もう一度人生をかけて0からスタート」するということ

 三嵜みさと滝口ひかりの両名が、11月11日の公演をもってdropを卒業することを発表した。

 滝口が自身のツイッターで述べた言葉は感動的だ。

もう一度人生をかけて0からスタートしなければならない

滝口ひかりなんてちっぽけな存在だと自分に言い聞かせなければならないと思いました

「いつだって、人生をやりなおすことはできる」と、人々は言う。しかし、今まで築いてきたものを捨てて、実行に移すことは、なかなかに難しい。まして、滝口のように、アイドルとしてそれなりの成功を収めており、<2000年に一度の美少女>などという異名をとり、知名度もある場合はなおさらだろう。

 「もう一度人生をかけて0からスタート」することは、なぜ難しいのか。こうした人生の選択を「根源的投企」というムズカシゲな言葉で呼んだサルトルは、その困難さを次のように説明している。

 もし、自分の人生を選択することができないのだとしたら(決定論)、人間は、自分の人生に責任を持つ必要はない。だって、自分が選んだ人生ではないのだから。過去の出来事や、周囲の環境によって、私がこうであることは決定づけられていて、私自身にはどうしようもできないのだ。

 ところが、「根源的投企」(要するに、自分の意志での選択)を行うとなると、様子は変わる。私には自由に人生を選択することができ、自分で選択を行ったわけだ。だとすると、私たちは自分の行動に「責任」を取らなければいけない。自分の選択がどんな結果をもたらそうと、その結果に責任を持たなければならないのだ。「自由には責任が伴う」とよくいわれるのは、本当はこういう意味だ。サルトルはこれを、「人間は自由の刑に処せられている」と表現した。

 周りの「大人たち」の言う通りにアイドルを続けていくことは、滝口にとって簡単だっただろう。しかし、滝口は、自らの責任において新しい道を選択し、歩き出すこと(=「根源的投企」を行うこと)を選んだ。「もう一度人生をかけて0からスタート」することは、普通の人にはなかなかできない。滝口のような、実績と知名度とファンを持つ、「大きな存在」であるアイドルには、一層難しいことだと拝察する。

 滝口のステージを初めて見た日のことを思い出す。<2000年に一度の美少女>という触れ込みを聞き、彼女の画像を見て、初めてステージを観に行った私の目に映ったのは、ひとりの等身大の少女だった。激しいパフォーマンスや笑顔は印象的だったものの、<2000年に一度>という肩書きによって多分にハードルを上げられていた私は、特に強く惹かれることもなくステージを後にした。しかし、今になって見れば、滝口のファンは、彼女の容姿だけでなく、その強い意志や人間性にも魅力を感じていたのだとわかる。<2000年に一度の美少女>というルッキズム的なコピーに終始し、彼女の内面的な魅力を伝えることができなかったメディアにも、問題はあったかもしれない。
 滝口は、過去のインタビューにおいて何度か、「dropを辞めるときは芸能界を引退するとき」だという旨を述べている。彼女が、同世代とのアイドルとの会話の中で、引退後の具体的な進路について言及している番組(椎名ぴかりんのヤッてみるニュース ♯7)もある。しかし、彼女の今後について、あれこれと詮索するのはやめにしよう。ひとりの女性としての彼女の人生は、私たちの手の届かぬところで紡がれていく。アイドルについて書く者として、彼女の残りのアイドル生活が輝かしいものであることを願っている。そして一人の人間として、彼女の卒業後の人生が幸多きものであることを願って、擱筆する。

 

 dropまねきケチャを運営するコレットプロモーションは現在、アイドル・芸能を志す新人を募集している。第一次募集は9/13締切。詳細は公式HPを参照とのこと。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 4. あの娘にばれるような・・・

 「KMYD」、「全開!神宿ワールド」と、<神宿にしか歌えない>曲が続いた後に、はじめて自己言及フレーズを含まない楽曲が登場する。バンド編成を基調としたJ-ROCK風のトラックとアクの少ない曲調を持つ、神宿入門にうってつけの一曲と言えるだろう。初めて神宿を聴く人にオススメを訊かれたら、私は迷わずこの曲を推す。

 ピアノにのせた小山ひなのソロ歌唱で本曲は幕を開ける。次に存在感を示すのは一ノ瀬みかだ。アニメソングにサザンロックのスパイスを効かせたかのような声質で粘っこく歌い上げる。癖が強く、好みがわかれるだろうが、サザンロック好きの私は好きな声だ。2'18付近では強めにケロらせた関口なほの歌唱が目立つ。

 この曲では、メンバーそれぞれの歌唱に違ったエフェクトをかけているように思う。小山のトラックには軽いリバーブがかけられている。息遣いが聴こえることから、ディエッサーなどの補正はかけていないと予想する。対照的に一ノ瀬のトラックにはリバーブをあまりかけておらず、代わりに、軽くピッチ補正がかけられていると思う。関口なほのトラックには、意図的にピッチ補正を強くかけており、その結果いわゆる「ケロケロ」系のアイドルボイスを創り出すことに成功している。

 あまり目立っていない羽島姉妹だが、1番(みき)とラスト(めい)でタイトルフレーズを担当していることに注目したい。アタマサビを含めても3回しかないタイトルフレーズ、曲中では全て羽島姉妹が歌っていることになる。この、一番重要な場面での「代打」を、羽島姉妹は難なくこなす。それぞれのパートに注目してみるとと、クラス内カースト最上位っぽいみきが「リア充気取ってる」と歌い、恋愛カースト最上位っぽいめいが「ホントに好きになってくれる人を待ってる」と震え声で歌う。実は曲中で一番<エモい>パートだと思う。

『原宿発!神宿です。』全曲レビュー track 3. 全開!神宿ワールド

 アルバム3曲目にして名曲中の名曲が登場する。「曲を作っているうちに、どんどん色んなアイデアが出てきて、どんどん曲のスケールが大きくなっていきました」とは、作曲者のながいたつの弁。それほどにこの曲には多くの要素が詰め込まれており、曲調はめまぐるしく変化し、まるでシンフォニック・ロックとでもいうべき展開を有している。

 メンバーたちが "Don't stop me" とコーラスを入れ、ギターソロに至ってはブライアン・メイそのままのフレーズ。これでもかというほどにQUEENへのオマージュが詰め込まれる(ちなみに、羽島めいはQUEENの "We will rock you" を自己紹介に流用している)。羽島みきが「あたたたたたたたたた」とケンシロウばりの連打を繰り出せば、裏で小山ひな(たぶん)が「あっ、痛い! 痛いよぉ~」と呻く。元サッカー少女のめいがシュートを放ち、関口なほ(なっぴぃ)が「Happy!」と叫び、一ノ瀬みかがみかちんワールドを全開にする。他にもRPGや(PVを見る限りではFFっぽい)、宇宙戦艦ヤマトといった様々な作品のパロディがちりばめられており、PVを観ながら聴くことで楽しさはさらに加速する。

 歌唱面では、5人それぞれにフィーチャーされているパートがあるが、とりわけ一ノ瀬みかの活躍が目立つ。